3人の識者が語る:旧統一教会と北朝鮮の関係、創価学会の実態、世界で勢いを増す「政治カルト」など、山積する宗教問題
国会で与野党すったもんだのやりとりの後、ようやく成立した旧統一教会の被害者救済法案。両親が信者の所謂「宗教2世」やその支援団体や、弁護士連盟などは「まだまだ課題が残っている。被害者がいることを忘れないでほしい」、「政治的判断は分からないが、もっと時間を掛けても良かった。つくるのであればもっとしっかりしたものをつくってほしかった」などと、注文をつけています。
この法案や旧統一教会と北朝鮮とのつながり、また関連する旧統一教会以外の宗教団体(特に創価学会)、また海外の政治と宗教の動きなど、評論家の宮崎哲弥氏、『宗教問題』編集長の小川寛大氏、ジャーナリストの鈴木エイト氏が、2023年の宗教について話し合った内容を、週刊ポストが全3回に渡って報じていますので、以下に引用して紹介します。
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旧統一教会問題で政治と宗教の関係に注目が集まっている。影響は創価学会と公明党にも波及しており、日本の宗教はターニングポイントを迎えている。評論家の宮崎哲弥氏、『宗教問題』編集長の小川寛大氏、ジャーナリストの鈴木エイト氏が、2023年の宗教について話し合った。【全3回(1/05公開)】
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第1回:中身が甘い被害者救済法案への危惧 旧統一教会と北朝鮮の関係にも注目
宮崎:昨年12月、統一教会(世界平和統一家庭連合)をめぐる被害者救済法案が成立しました。これは支持率が急降下した岸田文雄・首相が政治的に必要だと判断し、急ごしらえした法律だと言えるでしょう。
鈴木:教団を規制する法律ができたことは最低限評価しますが、やはり中身が甘い。既存の法律より行使要件が厳しくなった面もあります。
小川:与党も野党もパフォーマンスの一面が否めません。そもそも統一教会含め、宗教団体の信者の大半は一般的な社会生活を送っています。その信者がマインドコントロールされているからとして財産権を奪うことは、憲法に抵触する恐れもあった。まだ様々な問題が残っているので新法を叩き台に今後さらに議論を深めるべきですが、世の中が「これでよかった」「すべて解決した」という空気感になっていることも危惧しています。
宮崎:規制の実効性が薄く、適用しにくい一方、違憲立法の可能性を否定できない……。解散命令手続きはどうですか。
小川:今後、おそらく1月~2月のうちに解散命令請求が出て、裁判所が解散命令を出すかどうかを審理する。教団側は最高裁まで争うことができ、実際和歌山の明覚寺に解散命令が出た(※注)際は確定まで3年かかりました。それまで世間の関心が持続するかどうか。
【※注/系列寺院による霊視商法詐欺事件を起こした「宗教法人明覚寺」(和歌山県)が2002年、和歌山地裁から解散命令を受けた件。文化庁は1999年に、同団体が「公共の福祉を害した」として和歌山地裁に解散請求していた】
鈴木:解散命令が出ても宗教法人格が剥奪されて税制上の優遇措置などがなくなるだけで、「宗教団体」としての活動は可能です。解散して信者が完全にバラバラになるわけではない。
小川:解散まで数年かかるうちに、教団が資産を隠す恐れもあります。統一教会は韓国に本部があるので日本からそこに送金したり、教団の土地や施設などの名義を信者や別の法人に移す方法です。過去にオウム真理教は資産の名義を変え、当局の差し押さえを逃れた。
鈴木:外為法に抵触しない100万円弱の現金を、信者が直接韓国に渡って届ける方法もある。つまり、抜け道が多いんです。
北朝鮮とのつながり
小川:じゃあ、結局どうすればいいのか。本気で教団に罰を与えたければ、解散ではなく破産に追い込むことが、より大きなダメージになるでしょう。そのために民事裁判で損害賠償額を確定し、教団の資産と照らし合わせるなどの必要がある。教団を潰すには時間はかかるけど、一つ一つ積み上げるしかありません。
鈴木:全国霊感商法対策弁護士連絡会などの集計では、2021年までの被害額は約1240億円ですが、実質はその10倍と言われています。一方で教団が国内にプールする資産は数百億円とされ、賠償には全然足りない。韓国の本部には1000億円ほどあるようなので、それを取り戻せればいいのですが。
宮崎:政治との癒着は断絶できるのですか。
鈴木:教団内部では「今は一時的にバッシングされているだけで、波が終わればまた政治家は教団に協力する」という認識が優勢です。彼らは閣僚クラスや自民党中枢の情報を握り、大勢の政治家が首根っこを押さえられている。この先も政治家との密な関係を小出しにしてくる可能性があります。
小川:政治との関係は切りようがない。自民党と統一教会は半世紀近くのつながりで、歴史的に深すぎます。岸田首相の「一切関係を絶つ」という発言は軽く、逆に信頼を失う発言になっている。
宮崎:私が気になるのは教団と北朝鮮の関係です。『文藝春秋』(2023年1月号)によれば、日本人信者が教団に献金した4500億円がロンダリングされて北朝鮮のミサイル開発に流用されたとのことで、事実なら由々しき事態です。「北朝鮮が脅威だから増税して防衛費を上げる」と主張する自民党の保守派が、日本で集金した金を北朝鮮に送る宗教団体と深くつながっているのだとしたら、保守の正当性に関わる大問題ですよ。
第2回:創価学会はいまや選挙の互助会か 「選挙以外に学会員を熱狂させる機会がない」の声も
鈴木:統一教会の問題が創価学会にまで飛び火して、週刊誌などで学会の元会員などによる学会批判が飛び交いました。
小川:興味深いのは、従来は「名誉会長である池田大作が作った正しい学会に戻せ」という教義に真面目な意見が多かったけど、今回は「学会は根本的にどうしようもない」という批判が多いことです。池田氏が表舞台から去って十数年が経過し、池田氏のカリスマ性でまとめていた部分が消失してしまったのか、組織に金属疲労が見られる。
宮崎:創価学会は公称827万世帯が会員という桁外れに巨大な組織ですが、日本でこれ以上教勢を伸ばすことは難しい。この先、どう生き残るかが喫緊の課題でしょう。
鈴木:創価学会に限らず、新宗教はどこも弱体化しています。そんななかで、今年は4月に統一地方選がありますね。
小川:公明党は地方議会を主戦場にします。理由は地方に影響力を持ちたいということはもちろんですが、学会員を食わせる手段でもあるという事情がある。本来は「宗教法人創価学会」が雇う学会員を地方議員に当選させ、税金で生活させる手段として地方選挙があるということを聞いたことがありますが、地方ほどそうした傾向がうかがえます。公明党は選挙戦の勝利を至上命題にする政党で、これまで比例ブロックでは全国くまなく当選者を出してきました。しかし創価学会の弱体化に伴い、今後は東北や四国など地方のブロックで公明党が1人も当選させられない可能性が出てきた。もし本当にそれが起こったら、単に1議席を失う以上のインパクトがあり、何らかの体制変革が求められるはずです。
宮崎:選挙は創価学会の組織原理に組み込まれているのです。公明党が選挙において創価学会に依存しているんじゃなくて、その逆。だからこそ、全国津々浦々に候補者がいることに意味がある。それなのに櫛の歯が欠けるように落選者が出ると、学会全体の問題になってしまう。
小川:よくわかります。今実際に創価学会の会員を取材すると、日蓮や仏教の教えに関する話はほとんど聞きません。純粋な宗教運動なら日蓮の記念日に全員で題目を唱えることなどが活力となりますが、創価学会は純粋な宗教的パワーはほぼなくなっている。交わすのは選挙の話ばかりで、もはや宗教団体ではなく選挙の互助会のようです。
宮崎:彼らにとって、選挙は一種の「祭り」なんだよ。
小川:逆に言えば、選挙以外に学会員を動員して熱狂させる機会がない。
宮崎:学会自体が弱体化しつつあるなか、現在の体制や体質は見直さざるを得ないでしょうね。他方、統一教会は来たる統一地方選において、「手のひらを返した」自民党が自分たちの協力なしでは沈んでしまうことを見せつけようとしていると思いますね。教会信者による助力の不在によって存在感を際立たせようというわけです。
鈴木:すでに教団側は地方議会や地方議員に「家庭連合は反社会的団体ではありません」という陳情書をどんどん送っている。ある種の脅しです。
小川:票目当てに、宗教団体とズブズブの関係になる政治家の節操のなさも問題です。ある保守系の地方議員は「僕はね、宗教5つ入っている」と言っていた。思想信条がないんですよ。
第3回:世界で勢いを増す「政治カルト」 トルコ、インド、アメリカで政教分離の危機
宮崎:現在、日本の宗教界はターニングポイントを迎えています。伝統宗教も新宗教も、選挙や葬式ばかりに頼るのではなく、本当の意味での宗教的な救済をどのように信者信徒にもたらすかを真剣に考えないといけません。家族や地域社会など、国と個人の間にある中間共同体が崩れ、寄る辺を失う人が増えるなかで、あまりに宗教が形骸化している。
小川:オウム事件後、神社や仏教、創価学会など既存の宗教は総出で宗教法人法改正に抵抗したけど、統一教会の問題についてはダンマリで嵐が過ぎるのを待っています。下手に騒いだら、こっちに来るとの認識です。
宮崎:宗教はアイデンティティの根拠を教えます。そして生死の意味も教える。だからこそ宗教2世問題の根は極めて深いと言える。特異な生育状況、生活環境に投入されてしまった2世がいかにして、それを克服するか。極めて厄介な問題ですよ。
鈴木:宗教2世の問題は安倍(晋三)さんの事件でようやくクローズアップされました。救済法案が成立したのも、宗教2世が顔を出して支援を求めたことが大きかった。
小川:これからはカルト的な宗教法人には社会の厳しい目が向けられて、活動が難しくなるはずです。しかし、それで個人が抱える心の問題が解決するとは到底思えません。むしろ新しいステージに移行するのではないか。
宮崎:その意味でも伝統宗教が本来の宗教性を取り戻すことが重要だと思いますね。かつてオウムに走った若者に「単なる風景」と切って捨てられた伝統宗教ですが、その後も「単なる風景」は変わらなかった。とくに寺院はいまこそアイデンティティの拠り所として出直すべきではないか。他方「政治カルト」もこれから勢いを増しそうな気配ですね。
小川:世界に目を向けると、トルコのエルドアン大統領やインドのモディ首相のように、宗教指導者と見まがう政治指導者が現われています。現にアメリカのトランプ前大統領をみればわかりますが、彼を支持するキリスト教右派・福音派のサポートがなければ、もう共和党は選挙ができない。政教分離は大切な原理原則であり、日本も堅持すべきですが、世界的には政教分離は終焉に向かうかもしれません。今後はそんな視座も持っておいたほうがいい。
宮崎:しかしそれは政治が硬直化し、それゆえ不安定化する原因にもなります。現代政治の要諦は理念などではなく妥協と利害調整です。だけどカルトには両方とも難しいでしょう。
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宗教はもともと人々の心のよりどころとして発生したはずなのに、キリスト教にしろ仏教にしろ、その他の宗教にしろ、その後の過程で、教会や仏閣の維持管理のための信者からの集金母体となっていった歴史があります。それはそれで信者の心が満たされればいいのでしょうが、どうかすると金集めに重点が置かれた結果が、今も昔も問題の根源だと思います。
ましてやイスラム教のように、中東など一部の国で、それを国の政治と一体化させ、独裁的な政治運営の道具のように取り扱っている現実があります。このように宗教はもはや人々の心の救いと言う本質から、離れてしまっている例が多いように思います。それがまた新興宗教の生まれる下地にもなっているようです。
人の心の問題を解決するこれはという処方箋がありません。そこに宗教のつけいる隙が生まれてきます。この被害者救済法はその防波堤への入り口となっただけかも知れません。ですからこれからさらに改訂を重ねていく必要はあります。しかし個人の信仰の問題は奥深いものがあり、これで解決という神の手のようなものはないので、簡単には行かない気がしますね。
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