民主主義の限界

2022年12月15日 (木)

藤原正彦氏:国会やメディアが些細なことに正義の旗を振り回し、これに国民が共鳴して悲憤慷慨する日本を憂う

Images-2_20221214145701  最近政治家(特に野党)やマスコミは、議員が旧統一教会とどんな関係があったのかとか、閣僚や政府関係者の不始末や過去の発言などをことさら取り上げて、さも自分たちが警察や検察さながら、見せかけの正義を盾に、国民生活とはほど遠いところで批判や非難を繰返し、悦に入っているように思えます。果たしてこれが国や国民のためなのか、どうもそうは思えません。

 こういった日本の現状に警鐘を鳴らす、「国家の品格」の著者でお茶の水女子大名誉教授の藤原正彦氏が、産経新聞に寄稿した記事を紹介します。タイトルは『正義をふりかざす日本人』で、以下に引用します。

日本人は正義をふりかざすのが大好きになったらしい。国会ではここ半年ほど、どの政治家が旧統一教会とどんな関係があったか、大臣たちの領収書や政治資金に関する不始末などに口角泡を飛ばしている。新聞、テレビ、週刊誌などメディアも持ち前の正義感を発揮し騒ぎ立て、野党は鬼の首を取ったように与党に詰め寄る。ここ数年を振り返っても、森友学園、加計学園、桜を見る会で一年も騒いだり、議員の金や女やポリティカル・コレクトネス(PC)に関するスキャンダルについて探偵ごっこに興じたりしてきた。

国会審議の中身のなさには呆れるが、政治の中枢を担う有能な人材として選ばれたはずの大臣が片端から馬脚を露わすのを見ると、政治家の劣化を思い知らされる。選挙で勝つには金や組織が必要なため、高潔高見識の人は全国津々浦々にいても政治家になるのは難しいのだろう。

どのスキャンダルもケシカランことではあるが、一言で言うとさざ波ほどの出来事ばかりだ。国益や国防にほとんど影響を及ぼさぬどころか、どれも十年後にはすっかり忘れられてしまうような事柄である。国会やメディアがこのような些細なことに正義の旗を振り回し、これに国民が共鳴して悲憤慷慨する、というのが近頃の日本と言ってよい。

正義とはイヤなものだ。これに拘っていると、大きな問題が一向に解決しないからだ。弱者を追いこんでいるグローバリズム、進む一方の少子化、経済成長を二十年余りも妨げている緊縮財政、上がらない労働賃金、外国人労働者の安易な受け入れ、国力の指標となるであろうエネルギーや半導体での出遅れ。教育では愚にもつかぬグローバル人材育成とか小学校英語、国立大学への乏しい予算が招いた科学技術力の著しい低下、など喫緊の懸案が多々ある。とりわけロシアによる十九世紀的なウクライナ侵攻が、この二十一世紀に恥ずかし気もなく行われるのを目の当たりにし、北朝鮮のミサイルや中国による尖閣や台湾への侵攻により、日本が戦争にまきこまれる脅威が現実化しつつあるというのに、自主防衛力の飛躍的向上すら遅々として進まない。敵を攻撃する力がなければ自分を守れない、などということは、私などは幼稚園の頃から知っていた。そもそも国防を担う自衛隊はいまだに憲法九条違反の非合法組織として置かれたままである。

メディアやSNSに依存するばかり

国民が「スキャンダルに戯れているヒマはないはずだ」と怒り出さないのは、国民までもが事の軽重を判断できなくなっているからだろう。自ら考えることをせず、メディアやSNSなどのもたらす情報に全面依存しているからである。

小泉竹中政権の郵政民営化がその典型であった。今から見ると、国民にとって近くの郵便局が消え、国内なら一日か二日で届いた手紙が一週間近くかかるようになっただけのものである。それまで郵政事業は黒字で税金などの投入もなく、民営化する必要などまったくなかったのに、郵貯と簡保の三五〇兆円に狙いをつけたアメリカが、日本に執拗かつ強力な圧力を加えた結果であった。政、官、財、主要メディア、御用学者がアメリカからの「官から民」要求を、無邪気にも盟友からの温かいアドバイスと受け止め一斉に賛成した。メディアに盲従する国民も双手を挙げて支持したから、郵政選挙で小泉政権は圧勝した。かつては郵貯と簡保の百%近くは日本国債で運用されていたが、今や郵貯で五分の一、簡保で二分の一ほどに減らされ、多くが米国債など外国への投資に向けられている。アメリカの狙い通りになった。日本人が汗水たらして貯めた金が国内投資に回らないから、経済成長できないし、地方が疲弊する。郵政改革を支持した人々は、その結果を験証し国民に伝える責務があるのだが、何もしようとしないし反省もしない。だから同じ過ちが繰り返される。

中国やロシアは息を吐くようにアカラサマな噓を吐くが、アメリカは国益のためとあらば、はるかに巧妙な大噓をつく。戦後に限ってもGHQによるWGIP(罪意識扶植計画)という日本人洗脳工作を行った。また給食をパン食とし「米を食べるとバカになる」などというまことしやかな噓を広めたため、日本人の食文化はご飯と味噌汁からパンと牛乳へと一変し、日本の生命線たる米作をはじめとする農業は大幅に潰された。米国の余剰農産物対策だった。

「民主主義こそ」と勝ち誇っているが…

日本人が大事なことに騒がず、つまらぬことにいきり立つ、というのは雑多な情報の中から本質的なものを選択するのが不得意になったということにある。この能力は情報の氾濫する二十一世紀において最も重要な能力の一つと言える。これに欠けると情報の海に溺れてしまう。

戦後、アメリカニズムが我が国に導入され、幸せを最大にするには自由を最大にすること、自由を最大にするには選択肢を最大にすること、という考えが主流となった。この中で人々は途方もない数の選択肢を前に、絶えず決断を迫られている。選択するには土台となる知識や教養が必要だし、自分でよく考えることも必要だ。しかも選択した結果には責任が伴う。選択とは苦痛なのである。独裁者がなくならない一因だ。私だってコーヒー豆を買うときにはモカ、コロンビア、ブルーマウンテン、キリマンジャロなどと面倒だから、「この店で一番売れている豆を下さい」と言うことにしている。

人々は選択が辛いからすぐにメディアやSNSなど手近な情報や見解に頼り、それらに流されてしまう。流されないためには、自分の頭でじっくり考える習慣や考えの土台となる正しい知識と教養、そして惻隠など豊かな情緒が必要である。国のリーダーたる政官財学やメディアにはこれに加えて大局観や歴史観も要求される。これらはすべて読書を通して得られる。世界で進行中の活字離れがこれらに対する致命的打撃となっている。にも拘わらず、読書文化の衰退が人々の知的衰退につながることを憂える声すら、正義をふりかざす声にかき消され聞こえてこない。欧米や日本など民主主義先進国は、人権抑圧で彩られる権威主義国を見て、「民主主義こそ」と勝ち誇っているようだが、民主主義は「国民一人一人が成熟した判断を下せる」という、どの国にとっても達成困難な前提の上に成立している。

大半の学生が新聞さえ読まないというほど活字文化が衰えた昨今、民主主義は急速にポピュリズムに接近してきている。年数をかけず同義となるだろう。そうなった日にも、かつてやれグローバリズム、やれAI、やれデジタルと浮き足立ち、PCや正義をふりかざすばかりで、活字離れのもたらす深刻な災禍に無自覚でいた罪を反省する人はいないのだろう。

 確かに今我々身の回りでは、情報があふれ返っていてその整理が全く付かぬ状況で、何が自分にとって重要かがわからぬまま、トレンドに飛びついている人が多いように思います。それを煽っているのがテレビに代表されるマスコミ。普通の人が見ると、奇をてらっているように思えるコスチュームをまとい、訳のわからぬ流行語をさも自慢げに使っているテレビ人によく出くわします。本人はそれがいいと思っているのでしょうが、何がいいのかよく分かりません。

 一方無差別殺人や傷害、凶悪犯罪も増えています。それこそ何でもできるという、自由が行きすぎた世の中の弊害であり、自己中の最たるものです。「刑務所に入りたかった」はまだしも、「死刑になりたかった」と言う御仁がいますが、死刑になりたいのなら勝手に一人で死ねばいいでしょう。被害者はたまったものではありません。それにこうした加害者に対しては、それこそ政治家やマスコミは、正義を振り翳して徹底的に叩けばいいのですが、票や視聴率につながらないためか、特別な法律を作るとか世論作りに奔走するとか、しているようには思えません。ですからこれからもこうした凶悪犯罪は増えるでしょう。

 つまり藤原氏の言うように、上から下まで何が大事で何がくだらないか、判断できない人があふれた世の中になっているようです。さざ波ばかり追求し、本当の日本が抱える国難に目が届かぬ国会議員がその代表者でしょう。少子化の問題以上に、この国会議員の資質のかさ上げが、大きな課題かも知れません。それはとりもなおさず、選挙民つまり国民の「成熟した判断」が必要なのでしょう。藤原氏はこれを「どの国にとっても達成困難」と言っていますが、残念ながらそうなのでしょうか。

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