日本の防衛力

2022年12月20日 (火)

40年前開発のトマホークでは日本は守れないこれだけの理由。ここは国産での開発に集中すべきだ

4_20221219171401  27年度までに43兆円の防衛費予算の枠取りが決まりました。ただその財源について、すったもんだの議論があり、また1ヶ月という短期間で増税の大方の方向性を出したのは、ある意味今までにない政治決断と言えますが、拙速を指摘しその背景を疑う向きもあります。

 そこでその防衛費の使い道ですが、何故か二つの兵器が先行して取り上げられました。それも海外からの調達で、です。軍事・情報戦略研究所長の西村金一氏が、JBpressに寄稿した記事に、その詳細が記述されています。タイトルは『40年前開発のトマホークでは日本は守れない、これだけの理由 本末転倒の防衛予算増額はむしろ日本の防衛力を削ぐ結果にも』(12/19)で、以下に引用して記載します。

まず防衛産業の育成から始めよ

 国家安全保障戦略(安保戦略)が決定する前に、なぜ高い兵器を購入することが決まるのか。日本は、戦い方と抑止力を検討して、どの武器を持つべきなのかよく考えるべきだ。

 今年の11~12月にかけて、2つの海外の武器を購入することがほぼ決まったようだ。

 フィンランド製装輪装甲車500両は、一般的な装甲車の価格1両概ね約5億円という情報から算定すると約2500億円、米国製のトマホーク500発は、英国防省が購入した価格を参考にすると約1500億円だ。

 相当高価な買い物である。

 この2つの買い物は、日本の安保戦略を検討中であるにもかかわらず決まったことだ。

 これらは2つとも、日本防衛の主役あるいはほぼ同じ役割を担う。それなのに、なぜ外国製なのか。

 しかも、日本の防衛基盤を育成しなければならないことが求められているのにもかかわらずだ。

 極めて高価な買い物をしなければならず、膨らむ防衛予算をどうやって確保しようかと、国会で議論されている。

 しかし、実は自民党内でも意見が分かれている。

 高い買い物をするのであれば、本当に必要なものなのか、数量は適切か、他に方法はないのか、今後の日本の防衛産業の発展性(将来性)はどうなのか――。

 どれも大きな問題であるにもかかわらず、一つも提起されていない。

 日本の防衛問題の焦点および日本の防衛の意識・感覚にズレがあるのではないかと、不安を感じざるを得ない。

1.外国の武器購入に軍事戦略はない

 どのような武器を保有(購入)するか考えるときには、まず我が国周辺の軍事的脅威に備えるために、頂点に国家安全保障戦略、このもとに防衛戦略(防衛計画の大綱)、陸海空防衛戦略が、そしてその戦略に基づく陸海空統合の戦い方(統合防衛計画)、陸海空個別の戦い方(個別の防衛計画)を決める。

 その戦い方が達成できる武器を購入するのだ。

 予算の制約や開発の期間を考慮して、長期的に計画するか、あるいは短期的に購入する。

 日本で製造できないものや技術を導入したいものについては、海外からの輸入に頼らざるを得ない。

 しかし、必要な時に必要な武器を導入できること、継戦能力の必要性、日本の防衛産業育成などを考えると、日本国内、日本の企業(防衛産業)に委託することが望ましい。

 防衛装備庁は、「防衛産業基盤を国内に維持し、強化する必要性がある」と認識し、次の2点を強調している。

①国土特性等に適合した装備品を取得することは、我が国防衛の観点から極めて重要である。また、防衛生産・技術基盤は、防衛力そのものである。

②経済安全保障の観点から、我が国の自立性の確保および不可欠性の獲得が喫緊の課題である。防衛生産・技術基盤を国内に維持し、強化する必要性は一段と高い。

 現実に起きているのは、防衛装備庁が強調していることと反対のことだ。

 ウクライナでの戦闘では、精密誘導兵器がいろいろな場面で使用されている。

 この様子を見ていると、日本の戦い方は大きく変わっていかなければならないはずだ。

 ところが、このことについては議論されず、税についてなど、その財源をどうするかが議論されている。

 今回のフィンランド製の装甲車の購入もトマホークの購入についても、前述の理論はなく、突然どこかで決定されたようで、全く奇妙な話である。

 政治家や大手メディアがこのことについて、問題として取り上げないことも不思議に感じる。

2.国土防衛用の戦車・装甲車は国産に

 陸上の主戦場で戦う装甲車を外国製にすることが決定した。

 装甲車というのは、十数人の歩兵を装甲車に搭乗させて、戦車と供に戦う戦闘車だ。例えば国土防衛戦では、

①沿岸付近の陣地に配置して敵の上陸を撃破する。

②国民が安全に後方に下がれば、戦いながら内陸部まで後退する。

③いったん上陸した敵部隊に反撃するときには、戦車と供に攻撃する武器だ。

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 防衛省令和4年12月9日のお知らせによると、「陸上自衛隊96式装輪装甲車の後継車両である次期装輪装甲車(人員輸送型)として、フィンランドPatria社の『パトリアAMV』に決定した」という。

 AMVとは、「Armored Modular Vehicle(装甲モジュラー車両)」のこと。

 選定理由は、

①第1段階評価においては、「日本製の三菱重工業の機動装甲車もフィンランド製のAMVも必須要求事項を満たしている」ということである。つまり、どちらも、防衛省の要求性能を満たしている。

②第2段階評価においては、「基本性能」「後方支援・生産基盤」および「経費」について100点を満点とする加点を行い、最終的な評価点が最も高かったPatria社製AMVに決定したという。

 フィンランド製という外国のAMVに決定しなければならほどの差があったのか。

 決定の理由として、基本性能については、パトリアAMVが最も優れており、経費については、パトリアAMVが高い評価であった。

 後方支援・生産基盤については、全体として概ね同等の結果となった。合計点でパトリアAMVが高い点数を獲得したということらしい。

 この結論の評価結果については不明確であり、全く納得できない。

 パトリアAMVは既存の車両で、三菱重工の装甲車は試作品だ。もし性能が少々劣っているとすれば、製品にする際に改善すればよい。

 後方支援と生産基盤が同じ評価というのも納得できない。

 国内で日本の技術で生産することから、それらの点では、日本の製品の方がはるかに高いといえる。

 この評価の中に、日本の防衛産業の育成という基準がない。

 本来であれば、この評価項目が大きな要素として入れられるべきである。

 関係者から聞いたところによると、なぜ日本企業が提案する装輪装甲車が落選したのか、その理由は具体的には分からないという。

 企業として開発に注力してきた技術陣への説明もできないらしい。

 これでは、日本の企業も技術者もやる気をなくし、企業の防衛産業部門の閉鎖、技術者の民間部門への配置換えが行われることになる。

 近年、日本企業の100社以上が防衛関連事業から撤退するという事態を招いている。極めて不安な事態だ。

 ウクライナでの戦闘でも、ウクライナはロシア軍の侵攻を食い止めるために、戦闘機・戦車・火砲・弾薬を、ミサイルや無人機を飛翔中に破壊する防空兵器を、早急に供与してほしいと何度も懇願した。

 だが、早急に供与してほしいと懇願しても、供与する国の国会や政府が決定するまで得られなかった。また、届けてもらえるまでに、相当な時間がかかった。

 必要な兵器がなければ、戦闘で敗北する可能性がある。また、多くの将兵が刻々と死傷していく。

 これらのことから、現代戦になればなるほど、国内に生産基盤を持つことが求められる。

 国産にすれば、国内企業、下請け企業までも武器生産技術レベルが上がる。大量生産すれば、価格も抑えられる。

 できるかぎり国内の企業に依頼することが望ましいのだ。

3.トマホークは抑止力になるのか

 トマホーク巡航ミサイルは、ほぼ40年前に開発された兵器である。

 1991年の湾岸戦争、2001年からのアフガニスタン戦争、2003年イラク戦争などで、大活躍した。

 私は、当時情報分析官の仕事をしていて、このミサイルがイラクの建物に命中する映像を見て、こんなにすごいミサイルがあるのかと衝撃を受けたものだ。

 国家安全保障戦略の改定検討中に、自民・公明両党は、反撃能力確保のために、米国製のトマホーク導入を盛り込むことに合意したという。

 さらに、防衛省が米国製の巡航ミサイル「トマホーク」について、2027年度までをメドに最大500発の購入を検討しているという。

 岸田文雄首相は12月13日のジョー・バイデン米大統領との首脳会談で購入交渉を進展させる方針を確認し、「反撃能力」の保有に向け、準備を加速させている。

 だが、ちょっと待ってほしい。

 このミサイルは、開発や戦闘で使用されてから20~30年が経過している。

 現在、ロシアは極超音速滑空体「アバンガルド」、中国は変則軌道ができる「DF-17」、北朝鮮も2種類の極超音速滑空体の実験を行っている。

 米国も極超音速巡航ミサイルや極超音速滑空体の実験を行い成功している。軍事大国では、撃ち落とされない弾道ミサイルの開発が焦点だ。

 トマホークの性能は、射程が約1200~3000キロである。

 日本がトマホークミサイルを保有すれば、九州~北京まで約1500キロであることから、狙って攻撃できる。

 また、中国の主要な海軍基地まで1000キロ前後、空軍基地は概ね1300キロ内、地上軍の基地までは1500キロ以内。中国軍の主要都市と中国軍の基地を狙って攻撃できる。

 広島から平壌まで約800キロ、北朝鮮全土まで約1000キロだから、十分に射程圏内に入る。

 だが、大きな問題をはらんでいる。

 問題その1は、速度が時速880キロ(音速よりちょっと遅い)、弾道ミサイルよりも遅い(3分の1~5分の1)ために、打ち落とされる可能性が高いことだ。

 もしも、中国が「S-300」や「S-400」防空ミサイルを重要基地などに配備していれば、撃墜される可能性がある。

 具体的に、ウクライナでは、ロシアの巡航ミサイルが、ウクライナの防空兵器で打ち落とされている。

 中国から弾道ミサイルが発射されると、日本の着弾場所にもよるが、10数分前後で到達する。

 もし、日本が本土からトマホークを撃ち返したとしたら、北京まで2時間近くかかる。こんなのんびりした撃ち返し能力で良いはずがない。

 問題その2は、そもそも抑止力になり得るのかということだ。

 ロシア・中国・北朝鮮は、極超音速滑空体の実験を行っている。弾道ミサイルの弾頭部分の主力として、極超音速弾道のミサイルや滑空体を開発中である。

 このようなミサイルの開発状況の中で、音速にも及ばないトマホークが、中国や北朝鮮に対して抑止力となり得るはずがない。

 問題その3は、トマホークは後10年もすれば、新たな巡航ミサイルと交代することになるだろうということだ。

 目の前にリプレースが迫っている古い兵器を日本が購入する意味があるのか。これは外圧で買わされると考えるのが普通だろう。

 将来的には、日本の「12対艦ミサイル」の射程を伸ばすという案もある。

 日本の長射程巡航ミサイルを保有することには賛成だ。

 だが、中国や北朝鮮が、極超音速で飛翔する弾道ミサイルを開発している時に、巡航ミサイルだけで、抑止力となるという考えは不十分である。

4.日本の反撃能力はどうあるべきか

 まもなく時代遅れになりそうなトマホークを購入することになぜ決まったのか、その経緯の説明が全くないのでは国民の信頼を得られない。

 日本の武器を装備するには、防衛戦略と戦い方と一致させなければならない。防衛戦略や戦い方が不明なままで、トマホークを購入しますというのには納得がいかない。

 本来であれば、中国や北朝鮮の弾道ミサイルを抑止するために、最も適した兵器は何なのかを検討すべきだ。

①極超音速滑空体を搭載した弾道ミサイルか、通常の弾道ミサイルか、あるいは巡航ミサイルかどうかを検討する。

②決定したミサイルは、日本で製造できるのであれば国産で、できなくて米国の技術に依存しなければならないのであれば米国製にするという検討があってよいはずだ。

 日本は、現段階では、速度が遅い巡航ミサイルで抑止力を保有することは必要だ。

 だが、近い将来には、どのミサイルが抑止力になるのかを十分に検討すべきだ。

 日本は、弾道ミサイルを開発・製造する時に来ている。日本には今のところ技術があるので、持つか持たないかの検討に入るべきだ。

 憲法の制約もあり、長らく惰眠をむさぼってきた日本の防衛議論に、突如降りかかった、ロシアによるウクライナ侵略。同時多発的に北朝鮮の今までにない大量のミサイル発射と、中国の台湾侵攻の予兆。これらの外圧で、政府もメディアも一気に抑止力強化に向かって走り出しました。

 しかし如何せん、周回遅れの装備と技術を、たちまち現状・現実に合わせようとしたところに、これらの装備の海外からの調達の議論が一気に進んだのだと思います。何せ日本にはたちまち最新鋭の兵器の設計や製造技術はないのですから、そうした装備の海外調達はやむを得ないのかも知れません。

 ただそれがもうかなり古く、役目を終わりそうなものだとしたらどうでしょう。あるいは日本の装備が、比較してそれほど劣っていないならどうなのでしょう。それだったら日本の防衛産業の英知を集めて、国産で何とか開発製造できないものか、そう考える方がまともなような気がします。ここは西村氏の意見に賛同したいと思いますね。

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