食料安全保障

2023年4月 8日 (土)

日本在住の外国人経営者が指摘する、日本の農業の問題点 今のままでは少子化のうねりの中で壊滅してしまう

Images-6_20230407164901  日本の農業はそれぞれの農地が非常に狭く、収益性が低いのと、その所為も含めて後継者不足が足枷となり、国の安全保障の根幹となる3大要素のひとつ、食料安全保障に赤信号をともす結果となっています。

 その大きな要因は農地の集約化とそれを支える大規模経営化が進んでいないことでしょう。それには農林族、農水省、JAによる利益誘導トライアングルの存在があります。彼等が農業の発展を阻害してきたからです。

 このブログでも何度か農業の問題を取り上げましたが、今回は小西美術工藝社社長のD・アトキンソン氏が月刊hanadaに寄稿した記事に焦点を当てます。タイトルは『農業復活の鍵は耕地面積の集約』で、以下に引用して掲載します。

日本は「農業後進国」

最近、食料不足対策として、栄養豊富で効率よく生産できる食用コオロギが世界的に注目されており、国内でも粉末化して食品への利用が進められています。 徳島県のある県立高校では、食用コオロギの粉末を使って調理実習を行い、希望者が試食。ネット上で「子どもにゲテモノを食わすな」などと批判が上がり、高校にクレームが殺到。コオロギ食の是非について、議論が紛糾しました。

私自身は、コオロギ食に必ずしも反対ではありませんが、食料安全保障を考えるならば、もっと先に目を向けるべきものがある。

農業です。

あとを継ぐ人がいないため、日本では放置される農地が毎年増加しています。政治家は、業界団体の旧体制を守ることだけしか考えておらず、農業は一向に成長していきません。私が本でそう書いたら、一部から「日本は農業大国だ」などと反論がきた。

「実際に、一戸あたりの経営耕地面積(農林業経営体が経営する耕地の面積)はどれくらいあるのだろう」

ふとそう思って調べてみたら、驚愕しました。日本は農業大国どころか、「農業後進国」レベルの耕地面積しかなかったからです。

具体的に数字を見てみましょう。

全国一戸あたりの経営耕地面積は3.2ヘクタールですが、北海道の平均が20.5ヘクタールで、平均をグンと押し上げています。北海道を除いた都府県で見ると、平均は1.4ヘクタール。これが大きいのか小さいのか、感覚的にわからなかったので、国際比較してみると、日本は先進24ヵ国中、下から2番目でした

国別で見ると、イギリスは70.86、フランスは45.04ヘクタール、農業大国とはいえ国土が日本の約9分の1しかないデンマークも49.78へクタールあります。欧州の平均を見ると39.4へクタールで、日本の10倍です。一方、日本と同じくらいの耕地面積は、ミャンマー、インド、フィリピン、パキスタンと、みんな発展途上国でした。

それほど、日本の戸あたりの経営耕地面積は小さいのです。

多くの農家が趣味レベル

耕地面積が小さいと何が問題なのかといえば、生産性が上がらなくなるからです。

たとえば、かつて、8時間かかっていた農作業が、機械化によって2時間で終わるようになったとします。耕地面積が4倍あれば、これまでと同じ作業時間で生産性が4倍になる。しかし、耕地面積が狭いと、機械化して2時間で終わらせても、それ以上やれることがない。生産性は上がらないところか、機械化したコストの分だけマイナスです。

つまり、耕地面積が狭ければ狭いほど、どんなに機械化し、効率を高めようとも、生産性に限界がある。どんなに補助金を出しても、経済合理性を高められません。 生産性が上がらないと得られる所得は低迷して、若い人は農業を選ばなくなります。

これは、中小企業問題とまったく同じ構造です。一つひとつの会社が小規模だと、大きな投資をやったり輸出したりすることができず、生産性が上がらないのです。

食料安全保障の観点からも、経済成長の観点からも、私は農地を集約して、生産性の高い農業を目指すべきだと考えています。

しかし、農家自ら率先して農地を集約し、成長するような行動に出ることは期待できません。

いまの農業の基幹従事者の69.6%(41.4万人)が65歳以上の高齢者。高齢者でも農業が続けられるのは、面積が小さく作業量が少なくて済むからで、これからわざわざ面積を広くしようとは思わないでしょう。

おまけに、農家はそれほど稼がなくても餓死する心配がありません。農作物は自分たちでつくっているし、家も代々の持ち家で家賃もかからないから、必要最低限の作物を育てて売ればいいと考えている。多くの農家は、稼業ではなく、趣味レベルで農業をやっているといいます。

集約が進まない理由

そもそも、なぜここまで農地は細切れにされているのか。

それには戦後、GHQによる農地改革が関係しています。GHQは、農地を所有しながら自らは耕作をしない地主と、土地を借りる代わりに農作物の大半を地主に納める小作農との格差を縮めようと、一世帯が所有できる農地を家族が自ら耕作できる面積に制限。政府は地主から小作地を強制的に買い取り、小作人に売わたしました。

結局、これがいまの小さな農業につながっているのです。

41.4万人もの高齢者の農地(平均耕地面積3.2ヘクタール)がこのまま引き継がれなかったとしたら、132万ヘクタールもの農地が遊休農地になります。

繰り返しますが、小さい面積ではどんなに努力しても売り上げに限界がありますから、よほど情熱のある若者でなければ、農地を受け継いで農業をしようと思わないでしょう。

日本は太陽の陽もたくさんそそぎ、雨もよく降る。農業に適した気候で、真面目に取り組めば農業大国になれるポテンシャルを秘めています。日本のフルーツは訪日観光客からの評価も高く、海外需要も見込める。自分たちが最低限生活できる分だけなどと言わず、メガファーム化で大量生産、輸出もして、どんどん成長していけばいい。

そのために、農地の集約は必須。政府が率先して農地を買い取り、集約して、農業をやりたい若者に売るなど、新たな農地改革をやるべきです。

農業政策において保守的な欧州も昔から集約化を進めており、1980年~2000年の間に、平均耕地面積が30.9ヘクタールから43.3ヘクタールに拡大しています。

結局、日本で集約が進まないのは、農協など「現状維持」をしたい人々が反対しているからです。

農協としては、小規模農家の会員がたくさんいたほうが影響力を保てる。実際に、農業の企業参入に反対したり、大きく成長した農家は、会員からはずしたりしています。

農地を貸したい人から借り受け、必要とする農家に転貸する「農地バンク」という公的事業もありますが、あまり普及していません。 先述したように、農家自身が農地を拡大したい、成長したいと思っていないからでしょう。

意欲ある若い世代が農業に参入してくれればいいですが、農家になるための条件や申請書類のハードルが高いことに加え、農家になったとしても、農協からは条件の悪い土地しか紹介してもらえないという話もあります。

補助金は衰退を促進する

補助金などの優遇政策で保護されてきた点でも、農業と中小企業は似ています。 2015年の経済協力開発機構(OECD)の報告書では、日本の農家収入の約半分を公的補助金などが占め、この割合はOECD加盟国平均の二倍以上だと指摘。

農家の収入の半分を税金で補うことに、いったいどんな経済合理性があるのか。疑問を抱かざるを得ません。

中小企業政策でも、間違った補助金が見られます。「中小企業は弱いから守らないといけない」と、成長を促進するための補助ではなくて、現状維持させるための補助金が多い。

農業も、1ヘクタール程度では発属性がないのに、現状維持させるために補助金を出す。これでは、いつまでたっても農業は改善しません。人口減少の下、若い人はこの発展性のない制度の犠牲者になりたくないから、あとを継ぐ人はいなくなる。

結果として、現状維持の補助政策はその業界の衰退を促進するだけに終わります。

アメリカは合理的で、逆に大規模な農業を行うメガファームをメインに、補助金を出しています。 約202万の農場のうち98%は個人事業で、大型農場は3%しかありません。この十年間、平均して年2.1兆円もの補助金の大部分が、上位3%の農家に充てられているのです。

しかも、補助金の申請はかなり複雑で、個人事業主ではほとんど手に負えません。アメリカ政府に近い知人に、複雑にしている理由を訊いたら、わざと複雑にしていると言っていました。申請のプロフェッショナルを雇えないような農家は、そもそも申請すらできないようになっているのです。

日本も、もう小規模農家への優遇策はやめるべきでしょう。

こう言うと、「弱者切り捨てだ」と反論がくるかもしれませんが、小さなところを守ることで、食料安全保障が脅かされ、経済成長も阻害しています。日本人全体が割を食っているのです。

悪循環を断ち切れ

中小企業問題で、私は連携や合併企業数を集約していかなければならないと主張すると、「潰せというのか!」「淘汰論者め!」「日本では集約はできない」と批判されましたが、農業の問題についてツイッター」に書いたら、同じような批判がきました。

「日本は平地が少ないから、集約は「無理」。

日本ではよく見られるゼロか百の極端な議論です。

4_20230407165201 日本の農地のほとんどが平地以外にある事実もなければ、耕地面積を集約できない事実もありません。実際、日本の30ヘクタール以上の経営耕地面積は、2010年の26.2%から2020年には36.3%まで上がっています。

ただ、もともと大きな耕地を持っている農家の話なので、小規模農家の集約も加速させていかなければいけない。

私はなにも、1.4ヘクタールの平均耕地面積を一気に50ヘクタールにしろと言っているわけではありません。1.4ヘクタールを2ヘクタールに、2ヘクタールを2.5ヘクタルに...と少しずつでも集約していこうと言っているのです。

「農家は淘汰されるべきだというのか」という批判もありますが、そんな話をしているのではありません。

別に廃業せずとも、農地の集約は可能です。先述したように、政府が農地を買い上げて集約、意欲ある若者に売るというのがベストですが、所有者が違う隣接する二つの農地があったとしたら、たとえば企業が間に入って、二つの農地を一括管理。農家にも働いてもらい、毎月、給料を支払う。農家に企業の「社員」になってもらうイメージです。

企業は社員の給料を支払わなければならず、「必要最低限」などと言っていられませんから、生産性の高い農業をせざるを得なくなる。

集約のやり方はいろいろあるのです。

農家や農協はいまのままでも困らないでしょうが、日本全体では話が違います。

これから日本は未曾有の少子高齢化社会に突入します。これまでの社会保障などインフラを維持するためには、生産性を高め、経済成長していかなければいけません。しかし、中小企業問題が象徴するように、小規模なものが多すぎることで、日本の成長は阻害されています。

私は別に、小規模の農家を営んでいる人を批判しているわけではありません。ただ、成長性、発展性がないのに、補助金を出すなど優遇するのは経済合理性がなく、おかしいと言っているだけです。

日本では、経済合理性がない分、補助金を出して補填する、補助を受けた側は補助金があるから経済合理性を追求しない、という悪循環がよく見られます。この悪循環が続けられたのも、人口増加ボーナスによる経済成長があったから。少子高齢化社会に突入するこれからの時代は、そうはいきません。

この考え方を批判する人に訊きたい。大半の農家は高齢者で、若い人は農業を選ばない、耕地面積はどんどん減っていく、補助金を出しても中身がよくなっていない、農業をやっている人の所得は十分ではない、食料自給率は悪化の一途…この現状の何がいいのですか、と。

経済成長できないままこの悪循環を続ければ、守ろうとしていた「弱者」もろとも、日本は滅びるでしょう。

 D・アトキンソン氏はイギリス生まれで、オックスフォード大学を卒業後、いくつかの会社を経て、1992年ゴールドマン・サックス社に入社、その後2009年に日本の小西美術工藝社に入社し現在社長である、日本在住の外国人経営者です。

 その彼が経営者の視点から、日本の農業の問題点を鋭く突いて、改善の提案をしています。日本人にも同様の視点を持つ人もいて、指摘もしているのでしょうが、何しろ冒頭述べたように、農林族の政治家と農水省の官僚、そして小規模農家の会員によって構成されているJAの、補助金と票の強い結びつきが、改善の目を潰してきたのが戦後の日本農業の実態でしょう。

 しかしアトキンソン氏の言うように、今のままでは、少子化の大きな波の中で、後継者はいなくなり、明日の農業は壊滅状態になってしまうでしょう。収益力の高い農業を目指し、新たな雇用を創出していくことが、必要不可欠です。そのためには、経済合理性を生かせる規模の拡大化と同時に、大規模農地は必要としないが、高付加価値を生み出す農作物の、先端農業技術の開発促進が待ったなしだと思います。

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2023年3月16日 (木)

日本が直面する食品輸入に関する4つの危機 東大教授が警鐘鳴らす、「世界で最初に飢えることになる」

Pixta_shopping750x501  ロシアのウクライナ侵略に端を発した、世界的な食料価格の高騰。それに加えてエネルギー価格の高騰による輸送費のアップも重なって、今多くの食材を輸入に頼る日本では、加工食品中心に食料品価格がかつてないほど高騰しています。

 だが価格の高騰よりもっと怖いこと、つまり食料品そのものが入手できない危機が迫ってきているのです。食糧危機については以前このブログでも取り上げていますが、今回再度NEWSポストセブンで公開された記事を紹介しましょう。タイトルは『日本が直面する食品輸入に関する4つの危機 「世界で最初に飢えることになる」東大教授が警鐘鳴らす』(3/07公開)で、以下に引用します。

かつてキューバの革命家ホセ・マルティは「食料を自給できない人たちは奴隷である」と述べ、高村光太郎は「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」と言った。果たしていま、日本は独立国といえるのだろうか──。

スーパーに行けば新鮮な肉や野菜が手に入り、コンビニにはすぐに食べられるような弁当や総菜が所狭しと並ぶ。外食ひとつとっても、高級フレンチから、チェーンのラーメン店まで多様な選択肢の中から選べるうえに、それらの一つひとつはさらに細分化している。たとえば「お肉が食べたい」と思ったら、神戸牛でも比内鶏でもアンガス牛でも部位や産地を選び放題だ。

昨今、多少値段は上がっているものの、いつでもどこでも食料が手に入る「飽食の時代」であることは間違いない。そんな日本から食べ物が消えて、日本人が飢える日が来るなど考えられない──ほとんどの人はそう思うだろう。

しかしその陰で、現実には、食料を輸入も自給もできずに飢えていく「食料危機」が始まりつつある。『農業消滅』(平凡社)、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社)などで繰り返し危機を訴えてきた東京大学教授・農業経済学者の鈴木宣弘さんが、食料危機のリアルをお伝えする。

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24_20230313150901 現在の日本の食料自給率は、37%。裏を返せば、いま私たちが口にしている食品の半分以上は、海外から来たものだ。つまり、もし食品の輸出がストップすれば、現在流通している食品の半分以上が消えることになる。

そうなった場合、私たちの食卓は一体どうなるのか。2022年4月に放送された『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)では、農林水産省の資料をもとに「国内生産だけで成人1日分の必要カロリーを供給する場合のメニュー例」が再現され、大きな衝撃を与えた。その内容はりんご4分の1個と焼き魚ひと切れ、米以外は、ほとんどすべてのカロリーを芋でまかなう「3食、芋だけ生活」だったのだ。

実際にいま、さまざまな要素が絡み合って日本の食品輸入は危機に瀕しており、「芋だけ生活」は目前まで迫ってきている。筆者はそれを「クワトロ・ショック」と呼び、日本に訪れた4つの危機に警鐘を鳴らしている。

◆中国のトウモロコシ輸入量は10倍に

1つ目は、コロナ禍で起きた物流停止がまだ回復していないこと。2つ目は、中国の食料輸入量の激増に伴う食料価格の高騰だ。

実際、2022年の中国のトウモロコシの輸入量は2016年の10倍に増えており、その驚異的な伸びはコロナ禍からの経済回復による需要増だけではとても説明できない。戦争の勃発など、有事を見越した備蓄増加も考えられる。

大豆輸入量も年間約1億トン。一方の日本は300万トンの輸入量に過ぎず、中国の「端数」にもならない。

もし中国が「もう少し大豆を買いたい」と言えば、輸出国は中国への輸出分を確保するために、日本に大豆を売らなくなる可能性すらある。

さらに脅威を感じるのは、海上運賃においても中国と日本の間に大きな格差が生じていることだ。いまや中国の方が高い価格で大量に買う力があるので、コンテナ船も相対的に取扱量の少ない日本経由を敬遠しつつある。そもそも大型コンテナ船は中国の港に寄港できても日本の小さな港には寄港できない。

そのため、まず中国に着港して小さな船に食料を小分けして積み直してから日本に向かうことになるが、当然その分の海上運賃は高騰する。

3つ目は、慢性化した異常気象によって世界各地で農作物の不作が頻発したこと。

そして最後は、ウクライナ紛争の勃発による物流の停止だ。「世界の穀倉」と呼ばれ、ロシアとともに世界で3割の小麦輸出量を占めるウクライナは耕地を破壊され、農業に大きなダメージを負った。

深刻なのは、そうした紛争の影響を危険視した国々が「国外に売っている場合ではない」と自国民の食料確保のため、防衛的に輸出を規制し始めていることだ。その数は現時点で小麦生産世界2位のインドをはじめとして30か国に及ぶ。現在日本は小麦をアメリカ・カナダ・オーストラリアから買っているが、それらの代替国に世界の需要が集中し、食料争奪戦が激化しているのだ。しかも現在、そこに歴史的な円安も加わり、日本は“買い負けて”いる。もしいまの状況があと数年も続けば、私たちの食卓からあっという間に小麦やトウモロコシは消えていく。当然、それらを加工したパンやケーキ、スパゲティといった食品も手に入らなくなるだろう。

◆将来の自給率は肉も野菜も5%以下

日本が世界に買い負け、入ってこなくなる恐れがあるのは、食料そのものに留まらない。例えばかつては日本が買い付けの主導権を握っていた、牧草や魚粉などの家畜や養殖魚のエサは、いまや中国が大量に高値で買い付けており、日本は高くて買えないどころか、ものが調達できない。

その最たるものが化学肥料原料だ。日本はリンとカリウムを100%、尿素も96%を輸入に依存しているのに、最大調達先の中国は国内需要が高まったため輸出を抑制しだした。カリウムはロシアとベラルーシに大きく依存していたが、ウクライナ紛争によって日本は“敵国”認定され、輸出がストップ。現在、それらの値段は平常時の2倍に高騰しており、原料が入らないために製造中止となった配合肥料も出てきている。

飼料や肥料に加え、現在深刻な問題となっているのが、野菜の「種」も海外に依存しているという事実だ。

日本で流通している野菜の80%は国産だといわれているものの、もととなる種は9割が海外の畑で採集されている。そうした状況下でも国内で奮闘している種苗業者によると、いまや「三浦大根」や「ごせき晩生小松菜」などの在来種ですら、多くはイタリアや中国など海外に依存しているという。そのため、いかに種を国内で確保するかが重要になるにもかかわらず、日本政府はそれに逆行し、国が予算を出して米や麦、大豆の種を県の試験場で作って農家に供給する事業をやめさせるような政策を取っているのだ。

現状の「37%」という食料自給率も諸外国と比較すればとんでもない低さだが、飼料や肥料、種を取り巻く事態を鑑みれば実質はもっと低い。

飼料や種の海外依存度を考慮すると、2035年には牛肉・豚肉・鶏肉の自給率は4%・1%・2%、野菜の自給率は4%と、信じがたい低水準に陥る可能性さえある。いまは国産率97%の米ですらも、国産の「種」を守ろうとしない政策によって、いずれ野菜と同様になってしまう可能性は決して否定できない。

◆「牛乳搾るな牛殺せ」

このままでは日本は世界で最初に飢えることになる──食料安全保障の危機は、すでに何年も前から予測され、筆者も警鐘を鳴らしてきた。しかし、日本の政治家たちはそれをまったく認識していない。実際、昨年1月に発表された岸田文雄首相の施政方針演説では「経済安全保障」だけが語られ、「食料安全保障」「食料自給率」についての言及は皆無だった。農業政策の目玉は「輸出5兆円」「デジタル農業」など、ほとんど夢のような話に終始している。

日本人には、「食料やそのもととなる種や飼料を過度に海外依存していては国民の命は守れない」という現実が突きつけられており、国産の食料を少しでも増やし、自給率を上げることが何よりの急務。つまり日本各地で頑張っている農家を国を挙げて支えることこそが、自分たちの命を守ることにつながるはずだ。

にもかかわらず、政府は真逆の政策を取っている。

その最たるものは、国内生産の命綱ともいえる米だ。国内の米の価格はどんどん下がっており2022年はコロナ禍の消費減も加わって、1俵60kg=9000円まで下がった。生産コストは1俵当たり平均1万5000円かかるため、作るほどに赤字になるのは明白だ。しかし政府が取った対応は、支援や補填ではなく「余っているから米はこれ以上作る必要はない」と苦境に立つ農家を切り捨てるものだった。

同様の危機は、酪農家にも起きている。2020〜2021年にかけて、コロナ禍による一斉休校に伴う給食需要や外食産業、観光地の土産菓子などの需要が蒸発したことによって、深刻な「牛乳余り」が発生した。しかしこのときも政府は「余っている牛を殺せ。殺せば1頭当たり15万円払う」という政策を打ち出した。だが、乳牛は種付けから搾乳できるまで最低3年はかかる。近いうちに乳製品が足りなくなったとしても牛は淘汰されていて、また大騒ぎになることが目に見えている。

◆食料は「武器よりも安い武器」

そもそも米も牛乳も“余っている”のではなく、買いたくても買えない人が続出しているというのが真実だ。わが国は先進国で唯一、20年以上も実質賃金が下がり続けており、新型コロナに伴う深刻な不況がそれに追い打ちをかけたことで日本の貧困化が顕在化したに過ぎない。だからいま必要なのは、政府が農家から米や乳製品を買って、フードバンクや子ども食堂など、食べられなくなった人たちに届ける人道支援だろう。

アメリカでは、コロナ禍における農家の所得減に対して総額3.3兆円の直接給付を行ったうえ、3300億円で農家から食料を買い上げて困窮者に届けている。

そもそもアメリカやカナダ、EU諸国では緊急支援以前から最低限の価格で政府が穀物や乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持している。例えばアメリカでは、米を1俵につき4000円ほどの低価格で売るように農家に求めるが、「最低限コストである1万2000円との差額は100%国家が補填するので安心して作ってほしい」とセーフティーネットも張り、それをほかの穀物や乳製品にも適用している。

そのうえで、食料を「武器よりも安い武器」と位置づけて、世界で安く売っているのだ。アメリカが輸出大国なのは競争力があるからではなく、食料を安全保障の要、武器とする国家戦略があるからだ。

しかもアメリカは、年間1000億ドル近い農業予算の6割以上を「SNAP」と呼ばれる消費者支援として使っている。これは低所得者にプリペイドカードのように使える「EBTカード」を配り、所得に応じて最大月額7万円まで食品の購入費に充てることができるという制度だ。これは消費者はもちろん、農家にとっても経済効果がある。

一方、日本は農業予算を削り、防衛費を強化するという方針だ。実際、2022年末の閣議決定では今後5年の防衛費を前回の1.5倍の額である43兆円と計上している。しかし、世界で唯一、エネルギーも食料もほとんど自給できていない国である日本が経済封鎖されて兵糧攻めに遭ったとき、助けてくれる国はあるだろうか? その答えは、いまのウクライナを見れば一目瞭然だ。

実際、私たちが命を守るのにどれだけ脆弱な砂上の楼閣にいるのかということを裏付ける衝撃的な試算が2022年8月、アメリカで発表された。米ラトガース大学などの研究チームが学術誌『Nature Food』に発表したもので、局地的な核戦争で15キロトン級の核兵器100発が使用され、500万トンの粉塵が発生するという恐ろしい事態を想定した場合だが、直接的な被爆による死者は2700万人。さらにもっと深刻なのは「核の冬」による食料生産の減少と物流停止によって、その2年後には世界で2億5500万人の餓死者が出るが、そのうち日本が7200万人で世界の餓死者の3割を占めるというものだ。ショッキングな事実だが、冒頭から説明している現実から考えれば当たり前のことだ。

このままでは、芋どころか、いざとなれば昆虫しか食べられないような事態になりかねない。

 日本の霞ヶ関では、国の政策原案が日夜検討され政治家(閣僚)へ提言されているはずですが、理想と現実は雲泥の差となっているようです。国益からの発想がほとんどなくて、省益にキュウキュウとしている様が、見え隠れします。

 私見ですが国益に最も鈍感な省庁は先ず外務省。これは論を俟たないでしょう。次に農水省、鈴木氏が言うように状況把握と将来展望に全く欠けていると言えます。米が余れば減反しろ、生乳が余れば牛を殺せなど、その象徴的な政策でしょう。

 農業従事者の高齢化と担い手の問題や、JAや兼業農家による農業の法人化への障害などについて、現場知らずでそれを無視する行政に加え、鈴木氏の言うように種苗に関する恐ろしいまでの無関心など、まるで農業が分っていない官僚たちが考える政策で、日本の農業はガタガタになっています。

 更にこの先食糧安保に各国が動き始めたら、日本の食糧危機は本当に現実化するでしょう。一刻も早くこの問題に政府も取り組まねばなりません。同時に、いつまで経っても些末な事案にのめり込んでいる野党も、こうした日本の将来に危機をもたらす重要課題に目を向けて欲しいですね。税金泥棒を続けるのではなくて。

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